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小説

『ソラリス』を読んで、未知との向き合い方を考える

ソラリス』

先日Voicyで紹介したこの小説。テキストベースでも残しておきます。

SF、ホラー、ミステリー、恋愛、哲学の要素が入った小説です。
1961年、ポーランドであり、ソ連であり、ウクライナでもあるリヴィウという都市出身のスタニスワフ・レムの作品。
映画にもなったベストセラー作品なので、知っている人も多いと思います。


 

あらすじ編


では簡単におおよそのあらすじを。

舞台は、惑星ソラリスの観測ステーションの中。
惑星ソラリスにはどうやら海があるらしいのですが、その存在が謎で、その謎を解こうとする科学者たち。
すでにステーションには3人の科学者がいたのですが、そこに後から参加した4人目の科学者ケルヴィンが主人公です。
ケルヴィンがステーションに着くと、何か異変が起きていることに気づきます。
1人が見当たらないのですが、どうやら自殺したらしいと・・・。
そして3人以外に「誰か」がいるということに気づきます。

科学者に話を聞こうと部屋に行くと、必死な様子でドアを後ろ手に抑えて、部屋を必死に隠す科学者。
部屋の中には笑う子供の声。
そして、ステーション内にいるはずのない黒人女性が走っている・・・。
そしてケルヴィンが部屋に戻ると・・・、ハリーという自殺してしまったケルヴィンの元恋人がいたのです。
「なぜ死んだはずのハリーがいるのか・・・?」
そんなミステリー感たっぷりなスタートです。

どうやらこれらの「お客さん」は、ソラリスの海が作用して、トラウマを表出させたものらしいと気づきます。
なぜトラウマなのか?そしてそれは何か意味があるのか?
その謎を解くべく、ケルヴィンは海と向き合うのでした。(以上超絶雑なあらすじおしまいw)
 

解釈編


さて、この小説をどう解釈するか。
以下は僕なりの解釈です。

ポイントは、「分からないもののにどう向き合うか」ということ。
分からない存在に対して、既存の知識の枠組みで、「こうだ」と決めつけてしまうというのは、一番楽なことです。

「ソラリスは何かの意思を持っているのではないか?」
「何かの感情を持っているのではないか?」
こういった考えは、全て「ソラリスの海は人間と似たような知性がある」、ということが前提です。
しかし本当にそうなのでしょうか?
人間至上主義」という言葉がこの小説に出てきますが、その意味することは、未知のものを人間と同じ枠組みで考えてしまうこと。
そして、ソラリスはこの「人間至上主義」をことごとくを裏切ります。
つまり、人間の知性では全く理解できないんですね。

U理論には「ダウンローディング」という言葉があります。
事象の本質を理解する前に、脳内にある既存のフレームワークをダウンロードして考えてしまうやり方のことを指します。
これではダメだということ。

ではどうすべきなのか?
その答えはこの小説の後半でのケルヴィンの行動に現れていきます。
つまり、未知のものに対しては、一旦思い込みを捨てて、「向き合おう」とする、ということです。
そのケルヴィンの姿勢こそが、おそらくこの小説の最大のメッセージだと思います。

そして、「人間至上主義」というならぬ、「〜至上主義」という言葉はいろいろアレンジ可能だと思います。
たとえば経理部にいたら、気づかないうちに、「経理部至上主義」になっているかもしれない。
「男性至上主義」、「日本人至上主義」ということもあるかもしれません。
気づかぬうちに全てを自分の枠組みで捉えてしまう危険性をこの小説は感じさせてくれます。

「ダイバーシティ」という概念が唱えられて久しいですが、この言葉を具現化していくためには、この「〜至上主義」という考え方を変えないといけないんでしょうね。
宇宙の生命という究極的なダイバーシティと比べれば、私たちの間の違いなんて大したものではないはずですし。