学びデザイン Official Site

Contents Library コンテンツライブラリ

小説

『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んでみた

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)

昨日のフライヤーの要約は本書。
Voicyで紹介したのですが、自分でも気になって即日読んでみました。
人口5千万の韓国で100万部も売れたという異例の書籍です。

いやー、なんとなく売れる理由がわかる。一読をお勧めします。




結婚をして育児中の主人公キム・ジヨンが精神的におかしくなってしまったことから物語はスタートします。
お母さんや死んだ友人に憑依したような話し方をし始めるんですね。
そういうショッキングなスタート。
ま、詳細はフライヤーの要約を読んでいただくとして。

この小説の体裁として面白いところは、カウンセリングをした精神科医のカルテの内容がそのまま小説になっているという点。
したがって、小説という読み物しては、かなりトリッキーというか、とっても不思議な感覚です。
カルテなので人物描写は非常に浅く淡々と話は進むのですが、そのためにまるでノンフィクションのルポを読んでいるような錯覚に陥るのです。

そして、カルテの描写からあぶり出されるのは、戦後から続く韓国社会における女性差別の歴史。
小学校の名前の順番のような些細な事柄からはじまり、進学、就職、そして社内での待遇など、いたるところに潜む日常的な女性抑圧の様子が描かれます。
相当いびつな男女構成比とか徴兵制など、韓国ならではの課題に基づくこともありますが、日本でもありそうな事柄も多い。
この小説が日本でも共感を呼んでいる理由もよくわかります。

私がこの物語から強く感じたのは、「マジョリティによる些細な行動が、マイノリティとの壁を作り、先鋭化させていく」ということです。

この小説に取り上げられた場面描写は本当に些細なことなんですよね。
でもその些細なことが実は当人に大きなインパクトを与えている。
旦那だってそれなりに気を遣っているはずなんだけど、結果的にはキム・ジヨンとの間に大きな溝ができてしまったわけです。
マジョリティからしてみたら、「なんでそんなに大げさなの?」とか「なんでそんな受け取り方をするの?」ということなんだろうけど、マイノリティにはその背景に長い長い過去の累積があるんです。
だから決して大げさではないのだ。

そして、この本が売れる理由の一つは、この「些細なこと」ということに焦点を当てているからなのかな、とも思います。
些細なことだからこそ、やった本人は無自覚で、やられた本人にしか気づかない。
そしてその些細なことが積み重なっていく、という構造が、より対立を先鋭化させていく。

先日flier book laboの読書会で『エスタブリッシュメント 彼らはこうして富と権力を独占する』という渋い書籍を使ったのですが、そこでの自分なりの一つの持ち帰りは、「自分自身がエスタブリッシュメントである、という自覚がないエスタブリッシュメントほどタチの悪いものはない」ということ。
今回の件に置き換えれば、

自分自身がマジョリティである、という自覚のないマジョリティほどタチの悪いものはない

ということなんですよね。

自分の立場の「自覚」の重要性を改めて感じさせられました。

ま、でも結構読後も余韻を残す本であることは間違いない。
読書にかけた倍くらいの時間、いろんなことを考えましたよ。
ジヨンの処方箋は最後まで出されないし(あの憑依はなんだったの?ということは放置)、そしてこの社会的な課題の処方箋も描かれないので、モヤモヤするんだけど、そのモヤモヤも含めてこの本の意図なんでしょうね。
ということで、話題作の紹介でした。