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『最後の頭取』を読んで、Weak Tiesの重要性に想いを馳せる

最後の頭取 北海道拓殖銀行破綻20年後の真実

北海道拓殖銀行は1997年に倒産しましたが、その時に頭取であり、その後特別背任罪で実刑判決を受けた河谷氏の回顧録。
主要なメッセージは、
「私は国策捜査のターゲットにされたスケープゴートに過ぎない」
「逮捕される理由はないし、拓銀倒産の責任者はもっと別にいる」
ということ。
実際にこの本では5人の責任者が名指しで指名されています。
名指しされた当人からすれば、穏やかではない本ですね。

当事者でもない私にとって、この主張の正当性はわかりませんが、晩年にして2年近い刑務所生活を送らざるを得なかったその悔しさややり切れなさはなんとなく想像することができます。
かつては都銀の頭取まで上り詰めた人が、刑務所内で「アイスクリームを食べる木製スプーンの不良品を仕分ける仕事」をするわけです。
孤独に奥さんからの手紙をただ待ち、その手紙がちょっと遅れるだけで不安に苛まれたりするわけです。
この波乱万丈の人生を生き抜いた84歳の人生の総括、とても重く受け止めました。



さて、この方の半生のストーリーが私に投げかけたメッセージは何か。
それは、「世界が狭いことのリスク」ということです。
この河谷さんのストーリーで書かれていることは、徹底的に自行、もしくは業界内でのことに終始しています。
自分の正論を突き通して課をつぶした、とか、初の都内勤務で苦労した、とか、支店長になって嬉しかったとか。
しかし、銀行以外のコミュニティの話は一切出てきません。
したがって、話がきわめて単一の価値観の中で語られているのです。

私がよく好んで語る話の一つに「Weak Tiesの効用」ということがあります。
この辺の記事などを読むとよく分かると思いますが、平たくいうと、
職場などの強い人間関係(Strong Ties)の外側に広がる弱い人間関係(Weak Ties)を持つことが、キャリア形成上きわめて重要である
ということです。

強い人間関係しか持たないようなキャリア形成は、ややもすると単一的な価値観に染まりきってしまい、「我が社の常識は、社会の非常識」状態になってしまいます。

「え、なんでそんなことやってるの?」
「そんなことやるくらいだったら、こうすりゃいいじゃん。知らんけど」

みたいな、素朴なツッコミを受ける機会がきわめて限られます。
したがって、自分のやっていることに疑いを挟むタイミングが遅れるんですね。

巻末には、ご自身の人生を振り返り、働き過ぎたことの後悔が語られる一節があります。
「拓銀を救おうと悪戦苦闘し、働き過ぎてしまったのではないか。」と…。

かの出口さんは、『知的生産術』において、これからの働き方に大切な要素として、「メシ・風呂・寝る」という生活ではなく、「人・本・旅」が重要だと語られます。

この河谷さんに、もう少しWeak Tiesがあれば、そしてライフスタイルの中にもう少し「人・本・旅」があればどうなっていたのでしょうか。
そんな「たられば」を勝手に想像しても仕方ないですが、壮絶な人生を送られた先輩の姿を通じて、世界を広げ、自分の中の価値観を多様化させることの重要性を改めて認識しました。

いろいろな読み方があると思いますが、私にとっては、これからの働き方や人間関係のあり方を考えさせられた一冊でした。